1998年6月16日火曜日

第3回 スタジアムに入れない人たちの思いを胸に

 いったいどれくらいの人が日本代表を応援しにフランスに行くはずだったのだろう。
 6月10日、出発の3日前に突然起きたチケット不足問題。キャンセルになったたくさんのツアー。何も知らされないで先に旅立った人たち、試合を見られないことを承知のうえで出かける決心をした多くのツアー客。
 何が起こっているのかさっぱりわからなかった。1万人以上の人の手にわたるはずだったチケットはどこに行ってしまったのか。スタジアムはいっぱいになるのか・・・。

 6月14日。私の参加したツアーは1枚もチケットを手に入れていなかった。       パリからTGV(新幹線)をチャーターし、トゥールーズに800人の客を運んだツアーがこういう状況だった。
 私はツアーとは別のルートで入手したチケットをバッグの奥にしまいこんでいた。別に悪いことをして手に入れたわけではないのに、自分だけがスタジアムにはいることをとても言い出せる雰囲気ではなかった。

 ツアーのバスはトゥールーズの駅からまっすぐ市営体育館に向かった。チケットを持たない客のためにトゥールーズ市が巨大スクリーンを用意していたのだ。収容1万3000人と言われていたが、整理券はあっという間になくなり、それ以上の人がつめかけるという。みんなスタジアムの近くまで生きたいという気持ちをあきらめ、スクリーンで見る場所を確保しなければならない。そこからスタジアムまではあるいて1時間、私はすぐその場を離れなければならなかった。

 カフェというカフェには青いユニホームを来た日本人サポーターであふれ、道では「チケットを売ってください」とフランス語で書いた紙をもつたくさんの日本人たちに会った。スタジアムのまらりにはダフ屋との交渉をあきらめ、うなだれて歩く人たち。その日のダフ屋の値段はキックオフ直前になっても1万フラン(約25万円)より下がらなかったという。

 私は歩いているうちにどんどん腹が立ってきた。過去4回ワールドカップを観戦しているが、こんな光景は初めてだ。ワールドカップにはチケットを持たずに来たファンはいるにはいるが、ここにいる何千という人たちはすでにチケットの代金を支払っているにもかかわらずスタジアムにはいれないのだ。この思いを、どこにどうやってもっていけばいいのだろう。

 キックオフ1時間前。3万7000人収容のスタジアムにはいると、そこはすでに「青の世界」だった。アルゼンチンのカラーが水色と白なのではっきりとした差が出ないのかもしれないが、スタジアムは青で埋め尽くされていた。

 6月1414時半、トゥールーズ・ミュニシパル・スタジアムに日本代表がたった。ここには怖れも気負いもない、堂々と胸を張った選手たちがいた。

 それは岡田監督のもと周到な準備を終え、その日を迎えたという自信からくるものだろう。そして何よりスタジアムにはいれないことも承知のうえでフランスまでやってきた1万人以上のサポーターの気持ちが彼らを支えていないわけがない。

 外と中、合わせて3万人以上と思われるサポーターたちがつくった、さながら国立競技場のような雰囲気が日本代表を力強くサポートし、ワールドカップという大きな舞台で100パーセントの力を出させるのだ。