2000年12月22日金曜日

第58回 サッカーのスピリットを説く

「フェアプレー個人賞はヴェルディ川崎の米山篤志」
 1211日に行われた2000Jリーグアウォーズでもっとも意外な選出だった。本人にはたいへん申し訳ないが、ほんとうに驚いた。

 Jリーグはフェアプレーを推奨するために、クラブと選手個人を対象にフェアプレー賞を設けている。しかし、この賞はなかなか簡単に受賞することはできない。個人はシーズンをとおして警告も退場もない選手のなかから、選考委員によって選ばれる。

「きたないプレーをせずにボールを奪えることが技術だと思う」と話す米山が守備の選手であり、このように考えて技術を磨き練習に励み、その結果、シーズンをとおして警告も退場もないということは、ほんとうに賞賛と尊敬に値することだと思う。

 クラブに対しては、退場1回につき3ポイント、警告1回につき1ポイント、出場停止1試合につき3ポイントが加算される。22ポイント以下で、そのなかでも最少のクラブがフェアプレー賞高円宮杯を受けることができる。そして、91ポイント以上にはそのポイントに応じて反則金が課される。

 フェアプレー賞高円宮杯は、唯一97年にヴィッセル神戸が受賞しただけで、それに準じるとみられるフェアプレー特別賞でさえ、93年と94年にサンフレッチェ広島、98年に清水エスパルスが受賞しているにすぎない。

 ことしは受賞の該当クラブはない。しかし興味深いのは、いつも反則金を払う側の横浜Fマリノスが一転して90ポイント以下のグループにはいったことだ。

 よくよく見ると、警告の多少は監督に負うところが大きいことがよくわかる。スチュワート・バクスター監督は、サンフレッチェで特別賞を2回、ヴィッセルで高円宮杯を受賞している。そして、ことしマリノスを変身させたオズワルド・アルディレス監督はエスパルスで特別賞を受賞している。

「こちらに絶好のチャンスがあってドリブルで抜け出そうとしたとき、相手の意図的と思われるファウルで止められた。そのあとで、相手に同じようなチャンスがあり、こちらのDFは反則すれば止められたのだが、フェアに守って相手に突破されてしまった。その結果、試合に負けてしまったので、そのDFは『あそこは反則で止めるべきだっただろうか』と聞いてきた。私はこういいました。『いや、あれで良かったんだ。あそこで反則で止めたら、次に同じような場面になったとき、また反則で止めるだろう。イエローやレッドカードが積み重なるだけでなく、個人の技量もチームの力も進歩しない。そして、なによりもサッカーのスピリットがどんどん破壊されることになる』と」(Jリーグオフィシャルガイド1997より)

 これは、バクスター監督が94年のファーストステージにサンフレッチェを率いて優勝したときの話だ。

 逆に、このような精神でシーズンを戦い抜いたはずのサンフレッチェやヴィッセルは、一転してことしは反則金を払う側にまわっている。

 ことしの反則ポイントが少ない順番にチームを並べると、エスパルス、ジュビロ、レイソル、パープルサンガ、セレッソ、FC東京、ヴェルディ、Fマリノス、ガンバ、フロンターレ、ヴィッセル、サンフレッチェ、ジェフ、グランパス、アントラーズ、アビスパとなる(以下が反則金を支払う)。
 成績とはほとんど因果関係がないことがわかるだろう。

「監督によって簡単にポイントを減らすことができる」「チームの成績とは関係がない」とすれば、Jリーグ全体で反則ポイントをもっと減らすことが可能なのではないか。制裁として反則金を課すだけではなく、Jリーグがもっと積極的に、選手一人ひとり、監督、クラブに「サッカーのスピリット」を説き、広める努力が必要なのではないだろうか。

そうすれば、新しい世紀にはもう一段階高い次元のサッカーをわたしたちは見ることになるだろう。