1999年11月12日金曜日

第35回 風穴をあけたゴール

 「勝つ」というのは本当にむずかしい。
 ことしのわたしのチームはつまずきだらけだ。プレシーズンの大会は得失点差で1位リーグに進むことができなかった。5月の菅平大会では、ベスト16で敗れた。リーグ戦の前半戦では思わぬ1敗を喫した。全日本選手権の東京予選では、準々決勝敗退という最近にない悪い成績だった。どの大会も去年の成績を下回った。

 思わぬ成績の悪さから、夏のシーズンオフの期間が3カ月もあった。10月から始まる後期リーグに向けて、チームとして万全の準備をして夏を過ごしたはずだった。合宿もしたし、練習試合も数試合組んだ。しかし、練習試合でも全然勝てない。準備のための練習試合だから、勝敗はそれほど問題ではない。少しずつ修正をしながら調子が上向いてくればいいと思っていた。そして、シーズンイン。

 初戦からつまずいた。引き分けてしまったのだ。前期に負けていた相手だから、引き分けは上向きともいえるが、リーグ優勝するためには絶対に勝たなければいけない試合だった。そして、第2戦。前期はホームで4-0の勝利を収めたチームに、アウェーで2-5と大敗した。決定的に打ちのめされた。

 目標をもって練習してきた。コンディションも悪くない。わたしにはなにが悪いのかよくわからない。ちょっとずつ歯車がずれているのだ。「なにか」のきっかけでかみあうようになるはずだ。そう信じたかった。わたしは髪を極端に短く切った。

 113日はめずらしく公式戦も練習試合もないオフ日だったので、国立競技場に出かけた。ナビスコカップ決勝、柏レイソル対鹿島アントラーズだ。ナビスコカップは4月に1回戦が始まり、半年以上もかけてJリーグの合間に行われるので盛り上がりに欠ける。ひとつでもいいプレーが見られればと思っていたが、予想以上にエキサイティングな試合だった。

 前半、レイソルはすばらしい攻撃を見せた。前半5分、右サイドからの酒井の完璧なセンタリングに大野が合わせて先制ゴール。その後も多彩な攻撃で何度もチャンスをつくり攻め続けた。しかし、追加点は奪えなかった。後半は一転してアントラーズのペース。後半17分に柳沢からビスマルクに渡り同点ゴール。2分後にはいい位置でのFKを阿部が決めて逆転した。だれもがアントラーズの優勝だと思ったとき、ロスタイムもほとんど残っていないそのとき、レイソルの渡辺毅の矢のようなシュートがゴールにつきささった。このままでは終わらせないという気持ちがそのままボールに伝わったゴールだった。

 試合はPK戦でレイソルが勝った。120分間と6人ずつがけったPK戦の間中、どきどきワクワクのしどうしだった。両チームが最後まであきらめずに必死で戦う姿に大きく勇気づけられた。そして試合後、敗れたアントラーズのサポーターが選手たちの健闘を大きな拍手でたたえただけでなく、最後のPKをはずした小笠原に対して、何度も何度も小笠原コールを繰り返して励ますのを見て心を打たれた。サッカーの美しさを堪能した試合だった。頭だけでなく、心も晴ればれとして軽くなった。

 先週の日曜日は後期リーグ第3戦。前期はアウェーで7-0で勝った相手とのホームゲームだった。前半からほとんどボールをキープして攻め続けたが、なかなか点がはいらない。相手チームも前期のようには点を入れさせない、と必死だったのだろう。

 わたしたちは辛抱した。ボールのあるところで一人ひとりが戦った。あきることなく何度も攻めた。右から左から攻撃し続けた。後半12分、ようやく攻撃が実った。風穴があいたようなゴールだった。終了間際にも得点し、2-0で勝った。

 久しぶりの勝利だった。会心の勝利とはいえないが、みんなの心のつかえが取れたような勝利だった。

 いままでわたしたちは強いチームに勝つことにターゲットをしぼって、それを目標にリーグ戦を戦おうとしてきた気がする。それはわたしたちのおごりだったかもしれない。どんな相手にも「勝つ」ということは簡単なことではない。それがわかっただけでも今シーズンの意味があるのかもしれない。

 残りの試合、1試合1試合を必死に戦っていこう。最後まであきらめず辛抱強く戦えば、結果がどうあれ、すがすがしい気持ちでシーズンを終われるに違いない。