2000年6月9日金曜日

第45回 興味本位にならないで


 青い空と海を背景に、白い砂浜で楽しそうにボールをける裸の女性たち。最近テレビで流れている歯磨きのCMだ。ヌードカレンダーで話題になったオーストラリア女子代表を起用しているものだ。

「強化費不足に悩むオーストラリア女子代表チームが、資金獲得のために全員でヌードに」 去年の暮れ、カレンダーが発売になる前に通信社が配信するや、大きな話題となって世界中に広まった。カレンダーは予想をはるかに越えて増刷され、世界各国で売られた。その後、日本でCMに起用されるなど大きな反響をよんだ。

 このニュースを最初に聞いたとき、わたしは「やれやれ」と複雑な気持ちになった。

 わたしがサッカーを始めた24年前は、まだ女子がサッカーをやることは一般に認知されておらず、ものめずらしさからか雑誌などの取材が少なくなかった。わたしは多くの人に女子サッカーの存在を知ってもらいたかったし、それがまったく特別なものでなくサッカーというスポーツそのものであるということを強く訴えたかったので、積極的に取材を受けた。

 しかし、受ける質問は「胸でトラップするのは痛くありませんか」とか「短パンをはいて足を振り上げることに抵抗はありませんか」とか「ボーイフレンドはあなたがサッカーをやることに何も言いませんか」というようなものが多く、できあがったページは下半身のアップの写真ばかりで構成され、記事の内容も興味本位のものばかりだった。

 わたしは失望を繰り返しながら、地道に取り組んでいけばいつかきっと受け入れられる日がくると信じていた。いまは多くの人の努力が実を結び、代表がワールドカップやオリンピックに出場することによって、女子のサッカーが一般に認知されたといっていいだろう。しかしそれが、オーストラリア代表のヌードの話題によって揺るがされやしないかと不安になったのだ。

 いまや世界のトップアスリートたちが裸を見せることはめずらしいことではない。スポーツ用品メーカーの広告写真などで披露されるその肢体は芸術といっても過言でない。鍛えぬかれた肉体は性別を越えて、まさにその競技を具現化している。それは見る者の息をのませ、つけいる隙を与えないように思える。

 オーストラリア代表のカレンダーやCMには、スポーツのもつ健康的な明るさはよく表現されていると思う。制作者のねらいはそこにあるのだろう。しかし、その部分だけを切り売りしてしまって、彼女たちが失ったものはないのだろうか。

 水泳の千葉すず選手がインタビューに答えた言葉をふと思い出した。最先端の技術を駆使し、水の抵抗を限りなく少なくした水着の着心地を聞かれ「(ひざや足首まで覆う)この水着なら、やっと好奇のカメラの目から開放されます」 

 5月31日からオーストラリアで女子サッカーの「パシフィックカップ」が開催される。オーストラリア、日本、アメリカ、中国、カナダ、ニュージーランドの6カ国が参加して、総当たりのリーグ戦を行う。

 オーストラリア代表は予想以上の強化費を稼いだが、その成果を見せられるだろうか。日本代表は、Lリーグが大きく変わり、ほとんどの選手の所属チームの競技環境がきびしくなっているなか、どんな戦いを見せてくれるのだろうか。