1999年10月8日金曜日

第33回 ドリームマッチが見たい


 1011日、体育の日の振替休日となったその日、東京は真っ青な空が広がった。国立競技場は5万以上の人で埋まり、ドリームマッチと呼ぶにふさわしい舞台となった。

 5年目を迎えたJOMO CUP99 Jリーグドリームマッチは、Jリーグ外国籍選手選抜チームにバッジオ(インテル・ミラノ=イタリア)とレオナルド(ACミラン=イタリア)をゲストプレーヤーとして招いた。

 バッジオとレオナルドのプレーは、そのひとつひとつがバッジオのプレーであり、レオナルドのプレーだった。彼らは試合の最初から最後まで自分たちのプレーを見せ続けた。そして、外国籍選手選抜チームは、ふたりに引っ張られるように伸び伸びとダイナミックにプレーし、試合を楽しんでいるようだった。

 バッジオは風のように軽やかでエレガントだ。プレー中に見せる心からサッカーを楽しんでいる様子、相手選手に表す敬意、それはファンだけでなく、味方選手、ひいては相手選手をも魅了してしまう。

 レオナルドとファンの交流には心を打たれた。鹿島のサポーターは、アウェーのゴール裏の一角を陣取り、3年ぶりで帰ってきた鹿島の選手「レオナルド」を応援し続けた。レオナルドは試合前と後にサポーターにあいさつに行き、とくに試合後には、広告看板を飛び越えて、サポーターの元へ駆け寄り、はいていたスパイクをスタンドに投げ入れ、感謝の気持ちを表した。そして、サポーターから投げ込まれたおそろいの赤いシャツをすぐさま身につけ、愛情を示した。そこには、選手とファンの美しい姿があった。

 わたしは、バッジオやレオナルドのプレーを堪能していたが、もちろん日本選手選抜チームを応援していた。ファンが選んだ日本代表なのだ。当然、いいプレーを期待するし、勝ってほしいと思う。

 相馬の左サイドの突破も、伊東の中央を切り裂くドリブルも、最後のところで跳ね返されてしまう。全体的に攻めにスピードがなく、積極性もないように感じられた。唯一、城の豪快なシュートがネットを突き刺したとき、席を立ちあがって喜んだ。城も得意の宙返りで喜びを表し、試合後のコメントでは「ゴールを決めたとき、もっと観客に沸いてほしいと思って宙返りをしました」と言っていた。しかし、わかってほしい。わたしたちは宙返りが見たいわけじゃないってことを。

 一試合を通じて、城のプレー、伊東のプレーをもっと見せ続けてほしい。わたしたちはゴールシーンだけに目を奪われているわけじゃない。そこに至るまでのひとつひとつのプレーを、ワクワクしながら期待し見つめているのだ。チーム全体に影響を与え、チームを躍動させるようなプレーを。

 今回の大会の概要が発表されたとき、バッジオとレオナルドをゲストとして招く意味が理解できなかった。Jリーグ選抜の試合に、なぜセリエAの選手が必要なのか。観客動員のために必要ならば、もはやJリーグの選手だけではドリームマッチはできないということになる。

 そんな難しいことを考えながら当日競技場に足を運んだが、秋空のぬけるような青、ピッチのあざやかな緑、色とりどりの満員のスタンドに身を置きながら、わたしはサッカー観戦を心から楽しんでいた。それは、たぶん主催者側の思惑とは別のところで、バッジオやレオナルドが多くのことをわたしたちファンや選手たちに残してくれたからだと思う。

 今後、Jリーグから彼らのような選手が育ってくれることを心から願わずにはいられない。そして、来年は本当の意味でのJリーグドリームマッチを見ることができますように。