2000年2月11日金曜日

第40回 「きっかけ」はどこかにある


「うわっ、これじゃうちのチームと同じじゃない!」

 日本代表は、香港でカールスバーグカップを戦っていた。

 WOWOWが、がんばって生中継で放送してくれたにもかかわらず、2試合とも自分のチームの練習時間と重なったために、わたしはやむなくビデオ録画での観戦となった。しかもメキシコ戦は、練習で疲れ切って帰ってきたあげくにニュースで結果を知ってしまったので、いつものように身をのりだして試合にはいり込むことはできなかった。

 その教訓を生かして、香港選抜戦はすべての情報を遮断して「これは生中継なのだ」と自分に言い聞かせて見た。すると、同じ疲れた体でも全然違う。チャンスやピンチに一喜一憂し、立ち上がったり、へたりこんだり。ハーフタイムには録画ということをすっかり忘れていた。トイレに行ったり、お風呂の準備をしたり、ビデオを早送りすることなく後半のキックオフの笛を聞いた。

 懸命の応援もむなしく0-0で90分間を終え、試合はPK戦に。日本代表は第3キッカーの中村のシュートがバーの上を越え、香港選抜はノーミスで5人目のキッカーを迎えていた。これがはいると日本の負けが決まる。
 このとき、冒頭の言葉がわたしの口をついて出た。

 先週の日曜日に行われた試合で、わたしのチームはPK負けを喫した。内容的にも負けるはずのない試合を引き分け、PK戦では同じように第3キッカーがはずしたのだ。

 例年ならいまの時期は新シーズンへの準備期間。1年間を戦い抜く体づくりとチームづくりに精を出しているころだ。しかし、ことしは東京都サッカー協会女子委員会設立10周年を記念する大会が急に開催されることになった。そして、その初戦でつまずいた。

 去年からつまずきの連続だったわたしのチームは、ことし最初の公式戦でも立ち直ることができなかった。

 結局、カールスバーグカップの日本代表とわたしのチームは同じじゃなかった。香港選抜の5人目がPKをはずし、日本代表は土壇場でPK戦の勝利をものにした。わたしは大きな声で「やったあ!」と叫び、「よし!」とうなずいた。

 日本代表の選手たちは、心からの笑顔だった。試合内容はけっして満足できるものではなかったし、「勝ち」か「負け」かは相手の1本のキックにゆだねられていた。しかし、そうしてつかんだ勝利の意味の大きさをだれもが感じていた。

 わたしのチームが迷路から抜け出るためには、なにが必要なのだろうか。修正すべき問題点をあげたらきりがない。短期間でそれがすべて克服できるかというと、絶望的だ。しかし、もしかしたら、紙一重のところに「きっかけ」が隠れているかもしれないのだ。

 絶望からはなにも生まれない。新シーズンに向けて、新しく生まれ変わったチームで一から始めよう。あせらずひとつひとつ積み上げていくなかで、きっと目の前がぱあっと明るくなるときがあるに違いない。

 日本代表選手たちの笑顔が、わたしを勇気づけてくれた。