1999年5月28日金曜日

第24回 リーグ戦を戦い抜くということ


 きょうの東京の最高気温は31.9度だったそうだ。5月としては過去最高らしい。暑いはずだ。「サッカーするには最高の季節になったね」と、つい最近言ったような気がするが、そんな季節はあっという間に過ぎていく。

 今週の日曜日も暑かった。わたしは、前期リーグ戦の山場ともいうべき試合をアウェーで戦っていた。わたしのチームはことしから関東リーグに参加している。初出場ではあるが、優勝という目標をもっている。優勝するからには、どのチームにも負けるわけにはいかない。そう思って戦ってきた。しかしこの日、リーグ戦5戦目にして初めての1敗を喫してしまった。

 ショックだった。試合後、反省というよりグチがつぎつぎと出た。
 「急に暑くなったから、体が動かなかった」「失点したときは、マークの指示が悪かった」「中盤がしっかり当たらないから、いい球を前線にいれられた」「DFの押し上げが悪かったので、攻撃にならなかった」「FWがしっかりキープしないから、どんどん攻められた」「審判にPKを取られたのでキレた」
 勝っているときは問題にならないことが、負けたとたんに吹き出してくる。べつに言い争うわけではないが、不信感がチームのなかに渦巻いている感じだった。

 いつもなら、帰り道の運転や、夕飯の支度をしたり食事をしている間に、頭のモードが切り替わっていくのだが、その日は昼間の試合のことがまったく頭を離れなかった。こんなときは寝てしまうにかぎるのだが、前夜に行われたFAカップ決勝のビデオを、試合結果を知る前に生放送気分で見ることにしていたし、11時半からはペルージャのセリエA残留をかけた最終戦がライブで放送されることになっていた。寝るわけにはいかなかった。

 FAカップ決勝は期待どおりすばらしい試合だった。マンチェスター・ユナイテッドはいつもわたしたちの期待を裏切らない。サッカーが楽しいものだということを十分思い出させてくれる。それはただ強いというだけでなく、見るものをわくわくさせるなにかをもっているからだ。

 セリエA最終戦はまた別の目で見ることになる。ペルージャがセリエAに残留できるかどうかがこの一戦にかかっているからだ。結果は1-2で敗れはしたが、他会場の試合結果と総合するとペルージャが残留を決めた。この試合でペルージャに勝ったACミランは優勝を決め、勝ったチームも負けたチームもお祭り騒ぎという奇妙な光景になった。しかし、これがリーグ戦というものだ。最終戦のあとに残るのは、その試合の結果ではなく、リーグ戦34試合の結果なのだ。

 シーズン当初、好調なスタートを切った中田に対して、「長いシーズン、疲れが出てくるこれからが正念場だよ。がんばれ」と、生意気にもわたしはテレビに向かって声をかけていた。そんな心配をよそに、チームが勝てないときも、監督が交代するようなことになっても、毎試合中田らしいプレーを見せ続けてくれた。試合ごとにチームメートの信頼を勝ち取り、イタリア人のファンの心をつかんでいくのが感じられた。その積み重ねがセリエA残留につながったのだと思う。

 中田のボディバランスはすばらしい。あのスルーパスはイタリア人をもうならせる。しかしわたしは、セリエAという厳しいリーグを1シーズンフルに戦い抜き、セリエA残留に大きく貢献したという点で中田英寿という選手を心から誇りに思う。

 ペルージャの試合が終わったのは深夜1時半すぎだった。体は疲れ果てていたが、頭は時間とともにさえてきていた。昼間の試合のことがどうしても頭から離れなかったのだ。

 わたしはリーグ戦1試合の結果にとらわれている自分を恥じた。
 気持ちを切り替えて、来週の試合のことを考えよう。残りの練習でチームメート同士の信頼も回復できるはずだ。マンチェスター・ユナイテッドのようにとはいかないまでも、楽しくプレーできていたときのイメージを思い出してみよう。

 「負け」という経験から何かを学んでいかなければならない。それがリーグ戦を戦うということだからだ。そして、1シーズンを戦い抜いた最終戦のあと、みんなで笑っていたいと思う。