2000年11月10日金曜日

第54回 四半世紀の誇り

 昨年の暮れからことしにかけて、世の中はなんでもかんでも「ミレニアム」で、はしゃいできた。わたしは最初はどういう意味かもわからなかったし、わけのわからないカタカナ言葉は好きではないので、まったく無関心だった。しかし、この2000年はわたしにとって、じつに記念すべき年であった。

 わたしの現在の所属チームであるFC PAFはことし20周年を迎えた。この夏、記念のイベントを行ったが、そのことはこのエッセイでも紹介した。それに加えて、わたしが最初にサッカーという競技を始めたチームである実践女子大学サッカー同好会の創立25周年記念パーティーが、先週の日曜日に行われた。

 25年といえば四半世紀、なんとも歴史を感じさせる響きだ。1970年代なかばは、日本の女子サッカーの歴史においても草創期といえる。

 実践には美しい芝生のグラウンドがあった。その芝生に魅せられて数人の女子学生がボールをけり始めた。逆に言えば、芝生とサッカー好きの女子学生のほかには何もなかった。更地に基礎を築き土台とし、その上に柱を立てていく。ひとつひとつの作業が必要だった。

 サッカーを教えてくれるコーチを探した。ゴールの代わりにハードルを3つ並べてハンドボールのネットをかぶせた。とりあえず、それだけあれば十分練習ができた。何もないところからチームを立ち上げた情熱は上達を生み、第1回チキンフットボールリーグ(東京都のチームを中心としたリーグ)で優勝を果たした。当時はまだ、日本サッカー協会のなかに「女子」というカテゴリーがないころだった。

 在学した4年の間には、2度のリーグ優勝を経験し、3年のときに日本女子サッカー連盟が発足し、4年のときには初めて全日本選手権大会が開催され、出場を果たした。わたしたちには、世の中に、少なくとも日本のサッカー界に「女子サッカー」を認知させたいという気持ちがいつもあった。そして、日本の女子サッカーを引っぱっていこうという気概に満ちていた。

 こうした考え方は語り継いでいかなければならない。次代の後輩たちにきちんとした道しるべが必要だと感じていた。何度も夜遅くまでミーティングを重ねた。そのときつくった「同好会規約」の最初の項、<目的>にはこうある。

「個人の意思を尊重し、信頼から生まれる和を目指し、サッカーを楽しみながらその底辺確立に貢献すると共に、女子サッカーの頂点に立つべく努力する」

 皮肉なことに、女子サッカー人口の増加に反比例するように、実践の成績は転げ落ちるように悪くなっていった。最初の10年で東京都リーグの1部から3部まで落ち、1987年に始まった関東大学リーグにおいても、5年後に2部制になってからは、ずっと2部暮らしだ。

 無理もない。ほとんどが大学にはいって初めてボールをける選手で、1年ごとにメンバーが変わっていく状況では、強いチームをつくることは至難の業だ。80年代のなかばには大学チームが増え、同じような状況で切磋琢磨していくのかと思ったが、日本体育大学や東京女子体育大学など体育系の大学が、基礎体力や運動能力を発揮してあっという間に力をつけ、現在では何十人もの部員が、サッカーをするために毎年入学してくるのだという。

 実践は慢性的な部員不足で、現在は4年生も含めた全部員が9人、実動人数は4、5人といったところだ。公式戦はここ1,2年内に卒業したOGの力を借りている。こんななかで、25年間続いてきたことが奇跡のように思われる。実践に未来はあるのだろうか。30周年は迎えられるのだろうか。

 今回のパーティーで配られた25周年記念誌には、25人の主将それぞれが、主将だった年の思い出をつづっている。不思議なことにそれらは驚くほど似ている。真っ青な芝生の上でサッカーに明け暮れた日々、つらかった夏合宿、チーム一丸となって戦って勝ち取った勝利の喜び……。どのレベルのリーグで戦っていても、サッカーで得られる楽しさ、喜び、連帯感は変わらないのだ。

 わたしがサッカーに出合ってから24年間というもの、実践での4年間とPAFでの20年間、つねに上を目指し、自分をきびしく律し、奮いたたせてサッカーに取り組んできた。それがわたしの誇りであり、喜びだった。しかし、現在の実践とPAFではチームのあり方に大きな隔たりがある。これまでのわたしには、いまの実践を認めないようなかたくなさがあったように思う。

 しかし、25周年パーティーに参加し、100人の仲間が集ったなかにいて、25年間続いてきたチームの偉大さをつくづく思った。強烈なひとりの個性が引っぱってきたわけではない。毎年変わっていくチームが、バトンを受けて、落とさず、次に渡して続けてきた結果なのだ。こういうチームが日本の女子サッカーの底辺をしっかり支えているのだと思う。

 来年の春にはまた、24年前のわたしのように、あの芝生のグラウンドに魅せられて、サッカーに出合う新入生がいるのだろう。