2000年4月14日金曜日

第43回 テレビの前のひとりごと


「シーズン到来!」といっているうちに、Jリーグはもう5節を終えた。わたしはなんて無精なファンだろう。日本代表の試合を見るために神戸まで出かけていくくせに、Jリーグには今シーズンまだいちどもスタジアムに足を運んでいない。

 これには悲しい訳がある。93年にJリーグが始まって以来7年間というもの自分の応援するチームをもっていなかった。各チームにお気に入りの選手がいて、どちらが勝つかということよりも、だれがどんなプレーをするかということに興味があったのだ。

 うちにいると午後2時からと4時から、そして7時からの3試合を連続で見られるときもある。そうするとだいたいJリーグの流れが見えてくる。好調なチーム、勢いのあるチーム、悪くないけれどなかなか勝てないチーム、これじゃ低迷はしょうがないと思えるチームなど、順位がだいたい納得できる。テレビ観戦はたくさんの試合が見ることができて、客観的にJリーグを楽しむのには悪くない。

 しかし、テレビ観戦を楽しんではいるが、テレビ中継に満足しているわけではない。「本当にオフサイドなの? オフサイド・ラインで撮ったカメラはないの?」「どうしていま監督の顔を映さなきゃいけないの? プレーを映してよ!」「えっ、CMのあいだに点がはいっちゃったの? 信じられない」「うわっ、どこ撮ってんのよ!」「ピッチサイドレポーターの顔なんか映さなくていいから、試合を見せてよ」

 テレビに向かって文句の言いっぱなしだ。実況や解説はほとんど聞いていない。おしゃべりがエスカレートして、どんどん試合から離れてしまうことが多いからだ。

 しかし8日土曜日、日本テレビで中継したヴェルディ対ジェフ戦のアナウンサーと解説者の言葉は聞き流せなかった。

 ヴェルディのFWが相手陣ペナルティーエリアにドリブルではいっていこうとする。ジェフDFがマークに付く。ヴェルディの選手が倒れる。レフェリーが笛を吹き、胸に手をやりカードを出す。カードはヴェルディの選手に出された。PKをもらおうとわざと倒れたのだ。リプレーで見てもまったく足は掛かっていなかった。

 アナウンサー「これ(わざと倒れたこと)は、サッカーという競技では許される行為です。マリーシアですね」 
 解説者「イマジネーションの一部です。いいことですね。でも演技が下手でした」
 アナウンサー「昔の読売クラブの選手たちはもっと演技がうまかったですよね」
 解説者「もっと、演技を磨かなきゃいけません」 

 ファウルを受けていないのにわざと倒れる行為は「シミュレーション」といって、最近とくにきびしく罰せられる。それは、サッカーをつまらなくさせる行為だからだ。ファンはけっしてそんなプレーが見たいわけではない。そして、ファンはそんなコメントが聞きたくてテレビを見ているわけではないのだ。

「この試合はヴェルディの試合内容も解説もつまらなかった」
 そう文句をいいつつ、次のレイソル対FC東京戦にチャンネルを変えた。試合はレイソルが先制するものの東京が追いつき前半1-1。後半、レイソルがオウン・ゴールで2-1とするが、すぐにまた東京が2-2と同点に。テレビに向かって声をあげて応援する。延長戦になると突然、放送終了をアナウンサーが告げる。

「そんなばかな。こんな試合を最後まで見せないでどうするの」
 テレビに向かって叫ぶ。まったくこれだからテレビはいやなのだとぶつぶつ文句をいいながら、突然我に返った。わたしはテレビ観戦などしている場合ではなかったのだ。今シーズンから、8年目にしてようやく、自分のチーム「FC東京」をJ1にもつことができたのに、無精してスタジアムに出かけていかなかった。

 FC東京はわたしの応援を待つまでもなく、快進撃を続けている。守るだけでなく果敢に攻め、先制されてもけっしてあきらめることなく最後まで戦う。なんて誇らしいチームだろう。わたしもふさわしいファンにならなければならない。

 まずスタジアムに出かけよう。そして、だれにじゃまされることなくひとつひとつのプレーを自分の目で見、だれに遠慮することなく歓声をあげ、自分のチームの勝利のために心から応援しよう。