2000年9月8日金曜日

第51回 「金メダル」なんて言わない


 「金メダルをとりたい」
 国を背負ってたつというような気負いもなければ、夢物語を話すようなうつろな瞳でもない。起こりうる現実として、最高の結果を出したいというまっすぐな気持ちの表現に見えた。壮行試合を終えたオリンピック代表選手たちのコメントだ。

 オリンピックというのは、不思議な大会だ。ふだんはまったく人気のないマイナーな競技でも、メダルをとると一躍ヒーローやヒロインになれる。しかし、ほとんどの場合、もてはやされるのはメダルをとったことであって、競技の内容ではない。競技そのものにはほとんど興味がないのだ。「メダルか否か」という評価だけでみる「オリンピック」という競技にさえ見える。

 日本のサッカーは長い間、この大会に出ることさえかなわなかった。前回のアトランタ大会で28年ぶりの出場を果たしたとき、ファンは狂喜し、我らがオリンピック代表はどんな戦いをみせてくれるのだろうと心から期待した。

 「国を代表して戦うという気はない」「世界の市場に自分自身をアピールしたい」
全員の気持ちだったとは思わないが、こういうコメントがひとり歩きしてテレビや紙面をにぎわせた。新しいタイプのオリンピック選手としてもてはやされた。

 しかし結果は、ブラジルに勝利したという歴史は残したが、2勝1敗という成績で決勝トーナメントに進むことはできなかった。大会後、外国チームからオファーがきて移籍するという選手もいなかった。

 今回のオリンピック代表に対するマスコミの取り上げ方は尋常ではない。今週はじめに発売された一般週刊誌2誌が、オリンピック大特集として巻頭カラーグラビア5~10ページをさいて、ほかの競技をさしおいてサッカーを取り上げている。テレビニュースや新聞でも、毎日「きょうのサッカー・オリンピック代表」と対戦相手チームの分析などを伝えている。

 毎回オリンピック・アジア予選で涙をのんできたファンにしてみれば、長い間オリンピックというのはほかの競技をみる大会だった。それが、柔道や水泳などをおしのけて、期待とともに大きく取り上げられるのは、いささか居心地の悪さも感じてしまう。

 しかし、いちばん冷静なのは選手たちではないか。きびしい競争のなかから選ばれた18人とバックアップ4人の選手たちには、日本中のサッカー選手の代表であるという意識がみえる。そして、時間をかけて積み上げてきたチームとしてのやり方に、いまは揺るぎない自信をもっている。

 その自信が、舞い上がっているわけでなく、気負っているわけでなく、はったりを言うわけでなく、「金メダル」という言葉を言わせているのだろう。

 わたしたちファンは「メダルか否か」なんてことは言わない。グループリーグの1試合1試合をどう戦うかを真剣に見ている。そして、決勝トーナメントに進んで、1試合でも多くの試合を見せてくれることを、心から期待している。

 さあ、わたしたちサッカーファンのオリンピックが始まる。