2000年11月24日金曜日

第56回 「真剣な目」で戦えば

 延長前半5分、土橋の目の覚めるようなミドルシュートがゴール右すみに突き刺さった。ボールをけってからゴールに至るまで1秒足らずの間、2万人の観衆は息をのんだ。次の瞬間、スタンドに、ピッチの上に、歓喜がはじけた。浦和レッズの長い長いシーズンの終わりだった。

 ピッチ上ではだれかれとなく抱き合い、スタンドには紙吹雪が舞った。選手たちは、ユニホームの下にサポーターから贈られたという「PRIDE OF URAWA」と書かれたシャツを着ていた。どこから見ても感動的な光景だった。

 しかし、レッズはJ1で優勝したわけでも、J2で優勝したわけでもない。J2の最終節で2位の座をようやく確保し、J1への昇格を決めたのだ。

 この1年間のレッズの苦悩は意外だった。昨シーズンJ1で戦ったメンバーをほとんどそのまま残したレッズは、ほかのチームの戦力とは歴然とした差があるように思えた。一発勝負なら番狂わせもあるだろうが、どのチームとも4回ずつ当たり合計40試合を戦うリーグ戦では、ほんとうに力のあるチームが優勝することになっているからだ。

 リーグ戦最中のレッズは苦しんでいた。勝てるはずの相手に勝てない。点がとれない。しかし苦しんではいたが、「どうしてだろう。なにか変だ」と首をかしげながらプレーしている感じだった。それが最終節では、必死の形相に変わった。どうしても勝つことが必要だった。引き分けでは、もう1年J2でプレーしなければならない。
結局、勝ち点差「1」がレッズと大分トリニータを天と地に分けた。

 Jリーグの勝ち点は、勝ちが3、延長での勝ちが2、引き分けが1。リーグ戦とは、勝ち点を積み上げていくことだ。しかしそれが、リーグの序盤と終盤では、その価値がまったく違うもののように思える。最終節の試合の勝ち点がリーグの順位を分けているように見えてしまうのだ。

 リーグ戦は、長い期間のなかでひとつひとつの試合をいかに高いモチベーションを保ちながら戦いつづけることができるか。悪いところが出たときいかに早く修正することができるか。ひいてはいかにチームとして成長できるかにかかっている。

 わたしのチームもいまリーグ戦を戦っている。1回戦総当たりで、わずか9試合のリーグ戦だ。現在3戦3勝、まだまだ序盤だ。こういう試合数の少ないリーグ戦ではひとつの試合を落とすと挽回するのはなかなかむずかしい。優勝するためには、トーナメントのような緊張感も必要だ。しかし忘れてならないのは、なにがあっても最後まであきらめない姿勢だ。

 わたしがJ2の最終節で見たものは、レッズの選手たちのひたむきで真剣な目だった。ただこの試合に勝つことだけを考えている表情だった。すこしきびしさが足りないわたしたちのチームも、残りの試合をこういう表情で戦うことができたら、3年ぶりのリーグ優勝も夢ではない気がした。

 そして、レッズの選手たちのように、すべての試合が終わったあとに、チーム全員で心から喜びを分かち合うことができるような、そんなリーグ戦をこれから戦っていきたいと強く思った。