2000年7月14日金曜日

第48回 「階段」をのぼろう


 梅雨は明けたのだろうか。7月にはいってからの東京は、連日30度を超す猛暑、連夜の雷をともなう嵐のような夕立、大きな台風が上陸寸前まで近づくなど、完全に梅雨の末期を思わせる。

 この時期の体調管理はとてもむずかしい。急激な気温の上昇、高い湿度、寝苦しい夜、体がこの気候に順応する前に、大切な試合を戦わなければならない。

 わたしのチームはいま、東京都リーグと並行して全日本選手権の東京都予選の真っ最中だ。年間の最大の目標である全日本選手権出場の第一歩の大会をこの時期に戦わなければならないのは、とてもつらい。

 しかし、日本のサッカー界はまさにいまがサッカーシーズンらしい。Jリーグは第2ステージが始まり、動向が心配されていたLリーグも7月1日に開幕した。

 企業のあいつぐ撤退でリーグ自体の存続が危ぶまれていたLリーグは、今シーズンは東日本4チーム、西日本5チームで東西別々に1次リーグを行い、後半戦を上位リーグと下位リーグに分けて順位を決するという試合方式で開催することに落ち着いた。東と西に分けることによって、遠征費を大幅に軽減し負担を軽くしようという狙いだ。

 東日本リーグが東北のYKK(新加入)、千葉のジェフ市原(新加入)、浦和レイナス(2年目)と東京の日テレ・ベレーザの4チーム、西日本リーグが伊賀(元プリマハム)、スペランツァ高槻(元松下電器)、宝塚(元旭国際)、熊本のルネサンス(新加入)と神戸の田崎ペルーレの5チームだ。

 企業の資金援助を受けられなくなったチームは主力選手の多くがチームを去り、戦力ダウンは免れない。そんななかにあって、地域の代表として新加入したチーム、とくにジェフ市原に注目している。昨シーズン関東リーグをともに戦い、対戦成績はわたしのチームが1分け1敗でリーグ3位、ジェフ市原が優勝という結果ではあったが、ほぼ互角に戦ったという印象をもっている。彼女たちの戦いが、わたしたちの力のバロメーターになると思うのだ。

 しかし、ジェフ市原はLリーグのきびしい洗礼を受けている。初戦は戦力に差はないと思われた浦和に0-2、2戦目は昨シーズンの後期リーグに優勝した日テレ・ベレーザに0-10で敗れている。
 西日本リーグでも、新加入のルネサンスが初戦で伊賀に0-13と大敗を喫している。

「Lリーグのレベルが、がくんと落ちた気がします。せっかく世界レベルの選手を迎えて、日本の女子サッカーのレベルもあがってきたのに。いままでのように緊張感をもって試合に臨めるか不安です。でも、試合の意味を理解し、若い選手を引っ張っていくのがわたしの役目だとは思っています」。長い間日本代表として活躍し、昨シーズンは国体と全日本選手権で優勝した田崎ペルーレの山口小百合は、日本の女子サッカー全体のレベルダウンを懸念する。

 日興證券をはじめとして次つぎと企業の撤退が決まったとき、わたしは「心配はいらない。いまこそ日本の女子サッカーが、精神的に強く生まれ変わるときなのだ」と書いた。しかし、状況はそう甘くないらしい。この時期にサッカーをやめてしまった選手のなんと多いことか。

 しかし、嘆いてばかりでは何も始まらない。いまさらあせっても仕方がない。地に足をつけた組織づくり、いわゆる「ピラミッド型」の形成にいまこそまじめに取り組まなければならない。

 10年前、高い雲の上に突然Lリーグをつくった。上から引っ張られるように高く高く上がっていった。しかし、ある日突然、引っ張っていた糸が切れて、急降下してしまった。

 いま、ずいぶん低いところまで落ちてしまったが、階段をとりつけた。だれでも一歩ずつ昇っていけば上にたどり着ける。全国の地域リーグを戦っている選手たちは、その階段を意識し始めたはずだ。そして、10年後には階段は強く頑丈になり、少しずつ上に積み上げられていくことだろう。

 ジェフ市原は1次リーグの最初の3試合を終えたら、初めての90分ゲームにも慣れ(関東リーグは70分)、激しい当たりにもびっくりしなくなるはずだ。徐々に自分たちのサッカーができてくるに違いない。シーズンが終わるころには、大きな成長を見せてくれることだろう。

 わたしたちはまず、暑さなんかに負けずに東京都予選を勝ち抜かなければならない。東京都リーグに優勝しなければならない。そして、関東予選に勝ち、全日本選手権に進まなければならない。来シーズンは関東リーグを戦って、優勝しなければならない。その一歩一歩がLリーグへの階段なのだ。

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