2000年12月8日金曜日

第57回 いつまでも寒くない

 気がついたら12月になっていた。いちょうの葉は黄金色に輝いていたと思ったら、かさこそと道をならしている。12月だから寒いのは当たり前だが、急に寒くなったせいか妙に寒さが身にしみる。

 「日立女子バレー部、今季限りで廃部」
 久しぶりで企業の運動部廃部のニュースが新聞やテレビをにぎわした。「日立」は長い間日本の女子バレーのトップチームだった。そしてその時代に日本の女子バレーは世界に誇ることができるトップレベルのスポーツだった。それが突然廃部を発表したことが多くの人を驚かせた。

 いまや企業のスポーツからの撤退は、ニュースにならないくらい日常茶飯事だ。世の中がこれだけ不景気では、企業は本業を倒さないでやっていくのが精いっぱいで、スポーツを支える余裕がない。

 日立の場合は、「国内リーグで優勝もできない」「女子バレーはオリンピックに出ることもできない」などの理由で、苦労してチームをもっているメリットがないということなのだろう。

 しかしたとえ景気が回復したとしても、いまのままでは「企業のスポーツが社員の士気を高めるという時代は終わった」などというひと言で、簡単にチームはつぶされてしまう。このまま企業に頼っていたら、日本のスポーツは全滅してしまうかもしれない。

 Jリーグが始まったころ、バレーボールもプロ化の動きがあった。Jリーグとはまったく違うやり方ではあったが、日立の監督や選手たちは積極的にプロ化を推奨し、会社もそれに押されるように、柏レイソルの運営会社としてつくられた㈱日立スポーツにバレーの選手たちを受け入れる態勢をつくった。しかしプロ化はならず、強く唱えていた監督や選手たちはチームを離れざるをえなくなった。

 わたしはこのとき、ひとつのクラブがサッカーとバレーのチームをもつ形になっていくのではと期待をもって見ていた。しかしよく考えるとそれが簡単なことではないことがすぐわかった。柏市を本拠地とするレイソルと、小平市の体育館を活動の拠点とするバレー部が同じ人たちに応援してもらうのはむずかしいことだからだ。
 そしてあげくには、「日立はサッカーをとって、バレーを捨てた」と報道される始末だ。

 スポーツが自立することは簡単なことではない。経済的な基盤も必要だからだ。しかし、スポーツはだれのものなのか、だれにとって必要なものなのか。見て楽しむ人、自分でやって楽しむ人、それぞれにとってなくてはならない存在なのだということが認知されれば、そのあり方は大きく変わってくるだろう。そんなに簡単に切り捨てたりはできないはずなのだ。

 簡単に変わることはできない。しかし、変わっていかなければスポーツの将来はない。

 Jリーグはいま、J2からJ1への昇格、J1からJ2への降格、Jリーグチャンピオンシップでの激しい戦いのなか、地域の人たちと喜び悲しみをともにしている。Jリーグがはじまって8年、完全に形になって表れているわけではないが「どこの町にもおらがチームがあり、だれもがスポーツを楽しめる環境をつくる」というJリーグがめざすものは、これからのスポーツの可能性を感じさせるものだ。そして、これから本格的に始まるサッカーくじが経済的な基盤になってくれるのではないかと期待する。

 来るべき世紀が、だれもが応援する自分のチームをもち、だれもがいつでもスポーツを楽しめる環境があるような、そんな時代であることを想像していたら、いつまでも寒くはないぞと思えてきた。

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