1999年3月26日金曜日

第19回 プールで歩き、春を待つ

 冬眠していた虫や動物たちが眠りから覚める季節になった。
 東京の3月は名残り雪が降ったり、強風が吹いて砂嵐が舞ったりしながらも、日に日に強くなっていく日差しが春のおとずれを感じさせてくれる。

 ケガをもっている選手にとって、冬は長くつらい季節だ。ウォーミングアップの時間を人の倍はかけなければならないし、寒さ自体が痛みの大きな原因のひとつであるように思える。試合や練習後のアイシングは肌が凍傷になるのではないかと心配になるほどだ。

 それでもオフの練習やトレーニングを辛抱強くやっていれば、3月の暖かいある日の練習で、こわがらずにのびのびとキックができたり、走ったときの体の軽さを感じることができる。それが、わたしの春の到来なのだ。

 昨シーズンの中盤から、わたしの筋肉はずっとトラブルに悩まされていた。ジャンプすると背筋がつったようになったり、強いキックをするために思い切り足を振り抜くとももの前や後ろに違和感を感じた。鍼や最新式の電気治療を試したがほとんど効果はなかった。

 オフになるとプールに通い始めた。マシントレーニングではかえって筋肉を固くするように思えたからだ。大腿二頭筋や大腿四頭筋、腹直筋や広背筋などをマシンで鍛える方法はどのトレーニング書にも載っているが、プールでの水中トレーニングを扱ったものは見つけられなかった。

 わたしは歩いた。筋肉をリラックスさせるようにイメージしながら、とにかく1時間水中を歩いた。横歩き、後ろ歩き、大股歩き、水の抵抗を利用してヒザから下を意識的に振り出して歩いたりといろいろ変化をつけてはみた。しかし、汗をかかない、息があがらない、筋肉痛にならないなど、成果が目に見えてこない単調なトレーニングは、何度もこれでいいのかと不安になった。

 同じころ、クロアチア・ザグレブに移籍したカズがももの筋肉にハリがあって、チームとは別メニューでプールでトレーニングしていると新聞に報じられていた。もっと詳しくどんなトレーニングをしているのか記事にしてくれればいいのにと思ったが、わたしのやっていることは少なくともまちがっていないと勇気づけられた。

 プールでのウォーキングを1カ月間したあと、マシントレーニングを再開した。いまは筋肉の不安なくマシントレーニングができている。このプールとマシンのトレーニングをほどよく組み合わせていくことが、新シーズンを戦い抜くカギではないかと考え始めている。

 最近、37歳で現役を引退した勝矢寿延さんの長い選手生活を支えたコンディショニングについての記事を読んだ。練習量の多さで有名な選手だった。激しい筋力トレーニングで強い肉体の基礎をつくったのは事実だが、プールでのトレーニングで自分の体の状態がわかるようになり、自然治癒力を高めていったのだそうだ。そして、なにより「35歳を過ぎてからは休養の重要性を考えるようになった」という言葉がわたしの心にひびいた。

 日差しが春の到来を告げ、シーズン開幕まであと1カ月。チームの練習、トレーニング、そして休養。自分にとって最適なバランスを見つけだすことこそ、ことしのテーマかもしれない。

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