2014年6月15日日曜日

コートジボワール戦が終わった



日本代表の初戦、コートジボワール戦が終わった。


負けたことはもちろん悔しいけれど、それよりなにより、日本が世界に見せようとしていたサッカーが繰り広げられなかったことがとても悲しかった。

現在の日本代表のサッカーは、いままでの代表にない魅力がある。世界の強豪に対しても、けっしてひけをとらず、堂々と攻撃を挑んでいくところだ。

自信にあふれたボールまわし、スピード感あるサイド攻撃、ボールが次々と動き中央突破していく痛快さ。それを世界のトップクラスを相手に平然とやってのける日本代表を誇りに思っていた。

それを実感したのはきのうの試合に向かう途中のメトロの中だった。

初戦が行われたのはレシフェという街だ。

泊まっていたホテルは街の南部の海岸地区、スタジアムは北西の方向にあった。メトロで40分くらいの距離にあり、ちょっと遠いなという印象だった。

でも、その40分間はあっという間に過ぎた。


最初に出会ったのは「NAKAMURA」と背中にはいったセルチックのユニホームを着た男性と日本代表のユニホームを着たその友人のグループだった。

「スコットランドから来たんですか?」と聞いてみた。

「いや、ぼくらはUSAだよ。でもきょうは日本を応援するんだ。そう、中村のファンだよ。彼のFKはすごいよね〜」

アメリカ人がセルチック(スコットランド)の時代の俊輔のファンで、日本代表を応援してくれている。私が過去のワールドカップで、ジダンのユニホームを着てフランス代表を応援しに行ったようなものではないか!


私は持ってきていた日の丸のついたハチマキを彼らに手渡した。「これを巻いて応援して!」それを見ていたブラジル人の子どもが「ぼくもほしい」と私を見つめた。それからというもの、次から次へ「オレもくれよ」「私も」「ぼくも」と中年の男性、若い女性、青年・・・へと日の丸ハチマキが渡っていった。


その中に日本語を勉強しているという青年がいた。彼を介してサッカー談義に花が咲いた。彼らのなかに強烈にあるのは、去年のコンフェデレーションズカップのイタリア戦での日本代表のプレーだった。

そのときの日本代表を思い起こしながら、顔が笑みであふれていた。
「日本はすごくいいサッカーをしていたね」
「ホンダはすばらしい」
「でも(試合に勝ったのは)イタリアだったね・・・」

誇らしい気持ちとともに、いいサッカーっていうだけでなく、そういうサッカーをして「勝つ」試合をきょうはブラジルの人たちに見てもらえるんだ!という期待で胸がワクワクした。

スタジアムは、日の丸をマントにしたり、日の丸を振りながら「ジャポン、ジャポン!!」と声をあげるブラジル人たちで埋め尽くされていた。


試合が始まると、ブラジル人が先頭に立って「レ〜、レ〜オ〜、レ〜オ、レ〜オ、レ〜オ、ニッポン!」と普段はブラジルの応援に使うチャントに「ニッポン」を当てはめてリードしてくれた。それは感動的な光景だった。本田のすばらしいゴールでそれは最高潮に達した。

その後、なぜか日本代表の攻撃は徐々に輝きを失ってしまった。

声をからして応援しているのは日本人だけになっていた。

帰り道、メトロの駅までのシャトルバスのなかでは、「ブラジル! ブラジル! ブラジル!」の声が窓を割らんばかりに響いていた。私の心も張り裂けそうだった。

重い気持ちでホテルに戻り、明け方までどうしてあんな試合になったんだろうと考えていた。ブラジルの人たちの「ブラジル!ブラジル!」の声が頭のなかでぐるぐると渦巻いていた。

目覚めると窓の外は太陽の光に満ちていた。前の晩の雨は涙とともに消えた。明るい日差しを見ながら、ブラジルの人たちの気持ちを思った。ブラジルの人たちは本当に明るく楽しいことが好きなのだ。

メトロのなかでの会話のひとつひとつ、やさしい笑顔を思い出していた。

次のギリシャ戦では、帰りのメトロのなかでも日本代表の話題でもちきりになりたい。「オ〜、レ〜オ〜、レ〜オ、レ〜オ、レ〜オ、ニッポン!」って、みんなで歌いながら帰ってきたい。

そんな試合になることを、心から願っている。


プロフィール

大原智子(おおはら・ともこ)
三重県伊勢市出身。1976年大学入学と同時にサッカーを始め、卒業後はクラブチームFCPAFを創設した。76年からチキンフットボールリーグ、81年にスタートした東京都女子リーグでプレーし、現在もFCPAFで現役。81年から84年まで日本代表。ポジションはMFだが、日本代表ではDF。クラブでも、チームの必要に応じてFW、DFでもプレーした。選手活動のかたわら、ワールドカップは82年スペイン大会、86年メキシコ大会、90年イタリア大会、94年アメリカ大会、98年フランス大会、02年日本/韓国大会、06年ドイツ大会、10年南アフリカ大会、8大会を観戦している。
著書 『がんばれ、女子サッカー』共著 岩波アクティブ新書
・フリーランス・エディター/ライター
・ハーモニー体操プログラム正指導員、ハーモニー体操エンジンプログラマー

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